気持ちよく頑張れること


ベランダで植物の植え替えをしていると、放し飼いにしている亀が作業の邪魔をしにやって来る。我が家のベランダは、賑やかで不思議な空間が広がっている。南国らしい沢山の植物と睡蓮鉢が3つと亀の住まいのトロ舟。睡蓮鉢のヒメダカとグッピー達は人の気配を感じるのか、私がベランダに出ると歓迎の舞(餌をねだってるだけ?)で迎えてくれる。睡蓮鉢には土と水草を何種類か入れてあるので、バイオトープが出来上がっていて、水替え不要。生き物たちがそれぞれの役割を果たしながら、穏やかに命をつないでいる。そんな健気な生き物の姿を見ていると、心がふっと軽くなる。

昔の私はサボテンでさえも枯らしてしまうような人間だった。枯らしてしまった事に罪悪感を持ち、植物を育てるのに向いていないと思い込んでいた。だけど、いつしか数をこなすうちに、少しずつ植物たちの「気持ち」が分かるようになった気がする。最低限の世話しかできてないはずなのに、いつの間にか増えてたりすることに喜びを感じる。

心理学には「自己効力感(Self-efficacy)」という言葉がある。簡単に言えば「自分はできる」と思える感覚のことだ。植物を育てる経験は、この自己効力感を育むのにとても効果的だという。最初はうまくいかなくても、試行錯誤の中で成功体験を積むことで、人は「自分にもできるんだ」と感じられるようになる。

不思議なもので、家の中ではソファに沈み込みダラダラと時間を浪費しがちな私も、ベランダに出ると自然と体が動く。重い土の袋を持ち上げ、汗をかきながら鉢を洗い、棘に刺されながら鉢に植え替えは決して楽な作業でもないが、金魚が水面を跳ね、カメが応援にやって来る。それらすべてが、私を前向きにしてくれる。

こうした自然とのふれあいが「レジリエンス(心の回復力)」を高めるとも言われている。自然のリズムに触れ、命の営みを間近で見ることで、私たちの心は癒され、ストレスに対して柔軟に向き合えるようになるそうだ。

ベランダという小さな空間は、私にとって心のセラピールームのようなものかもしれない。誰かと競うわけでもなく、ただ植物や生き物たちと静かに向き合う時間。忙しさや不安でバラバラになりそうな心を、そっと整えてくれる。

今日もベランダでは、小さな命が静かに息づいている。そしてその命が、私自身をも育ててくれている。

投稿者プロフィール

石黒 要
石黒 要くれたけ心理相談室(バンコク支部)心理カウンセラー
くれたけ心理相談室(バンコク支部)は、タイのバンコクを拠点に心理カウンセリングを承っております。国内外問わず、Zoom・Google Meet・Skypeによるカウンセリングにて対応させていただいております。

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